PANTERAという、ながくてみじかい衝撃について - あふろざむらいの音楽ブログ

PANTERA（パンテラ）というバンドをご存知だろうか。

1981年にアメリカのテキサス州ダラスで結成されたヘヴィ・メタルバンドだ。

たぶん、このアルバムジャケットで思い出す人もいるかもしれない。

これは1992年に発売された「俗悪 - VULGAR DISPLAY OF POWER」というアルバムだ。本作でPANTERAは一気に有名になった。

ぼくはこの頃予備校生で、塾で一緒に勉強していたちょっと軽そうなやつがCDを貸してくれたのだ。

最初に聴いた時の印象としては、「なんだか怖いな」というものだった。ゴリゴリしていて、金属的な音から冷たい印象を受けたのだ。翌週、塾の軽そうなやつにCDを返した。そいつは「かっこいいっしょ？」と聞いてきたので、ぼくは「かっこよかった！」と答えた。するとそいつは気を良くして「この重低音でちゃんと音が聞き分けられるように弾けるってすごいよな」と言った。「そうだね」と答えたが、ぼくにはその意味はよくわからなかった。PANTERAは重低音がすごい、ということらしいというニュアンスだけは理解した。

当時はインターネットなんてものは家庭に普及していなかった。そのかわり、テレビでMTVを放送していた。ぼくはその番組を録画してビデオクリップを観るのが好きだった。その中にPANTERAが入っていたのだ。忘れもしない、「Mouth For War」だ。

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おかしな話だが、ぼくはこのビデオクリップを観て、はじめてPANTERAがかっこいいと思った。ようするにビジュアルが気に入ったのだ。ビデオクリップを作った監督が下手くそだったら、そんなにPANTERAにはまることはなかっただろう。

原因はともかく、ぼくはハマった。

とくに好きだったのはギタリストのダイヤモンド・ダレルだ。その後ダイムバック・ダレルと改名したが、ぼくにとってはずっとダイヤモンド・ダレルだったし、今でもそうだ。

典型的なヘヴィ・メタルのリフと、実験的なノイズを組み合わせるという手法によって、唯一無二のギタリストに上り詰めた。エディ・ヴァンヘイレンのようにギターヒーローとして前にでてくるタイプではなかったが、それでもPANTERAの曲を聴いていると、ダレルはとても印象的なフレーズを奏でる。ぼくは長い間友だちに「このリフの次にくるポーンていう音がいいんだよ」とか「この曲の後半のソロがすごくきれいなんだよ」などとPANTERAを勧め続けた。みんな、ぼくが言っていることがあまりよくわからないようで、「そりゃよかったな」という反応だったが。

ぼくはずっとダレルのファンだった。正直、1994年の「脳殺 - FAR BEYOND DRIVEN 」が頂点で、そのあと徐々に失速していったのだ。アルバムにも、ファンとしてもちょっと退屈だと思うような曲も入るようになってきたし、過去の曲に似ていると感じる曲もあった。それでもぼくはダレルが好きだったし、PANTERAは最高だと思っていた。

今にして思えば、そういうファン心理というのは、若さのあらわれなのかもしれない。もう、そこまでなにかに夢中になることはないような気がする。

やがて、PANTERAは解散した。メンバー間の不和。よくあることだ。ダレルは新しいバンドをはじめた。そのバンドは、PANTERAの面影はあったが、どこにでもいるヘヴィメタルバンドになってしまっていた。PANTERAはフィリップ・アンセルモというヴォーカルとダイヤモンド・ダレルというギタリストが起こした化学変化だったのだ。

そして、ダレルが死んだ。ライブ中に観客に銃で撃たれたのだ。

ぼくは悲しかった。PANTERAはもういなくなっていたし、新しいバンドはさほどよくもなかった。それでもダレルは大好きだったのだ。ダレルの音楽はアルバムの残っている、永遠に、という言葉は何度も聞いた。だけど、新しい音はもう聴けないのだ。

ヘヴィメタルの歴史にはブラック・サバスやレッド・ツェッペリンといった、歴史を変えてなおかつ延々と影響を与え続けるバンドがいる。PANTERAの登場は衝撃的だった。モトリー・クルーやスキッド・ロウはもろに影響を受けてPANTERAまがいのアルバムを作った。しかし、その波はもう今は去った。PANTERAは今でも熱狂的なファンがいるバンドだ。しかしヘヴィメタルの歴史からすれば一瞬だった。いまだにドラマ「ツイン・ピークス」を毎週見ているファンがいるようなものだ。撮影された土地にいけばツイン・ピークスツアーもあるかもしれないが、多くの人は忘れている。

それがPANTERAというバンドだ。